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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)5912号 判決 1991年3月05日

原告

樋口恒美

被告

白石敏夫

主文

一  被告は、原告に対し、七二九万一〇六七円及びこれに対する昭和五九年四月一九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二七〇九万四〇六三円及びこれに対する昭和五九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故が発生した(以下、「本件事故」という。)。

(一) 日時 昭和五九年四月一八日 午後二時五〇分頃

(二) 場所 大阪府東大阪市弥生町三番三七号先路上(国道旧一七〇号線、以下、「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 普通貨物自動車(登録番号、大阪四六は第六三六二号、以下、「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車両 原動機付自転車(登録番号、東大阪市み第三八六六号、以下、「原告車」という。)

右運転者 原告

(五) 事故態様 被告が被告車を運転して、本件事故現場を南から西に左折進行しようとしたところ、折から同所を南から北に向かつて直進中の原告車前部に被告車の左前部を衝突させ、その衝撃により原告車及び原告を路上に転倒させて原告に傷害を負わせた。

2  責任原因

(一) 被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 原告は、原告車を運転して道路の左側端を直進していたのであるから、原告車の後方から進行してきた被告は、左右前方を注視し、安全を確認して運転する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り原告車を確認しないまま、漫然左折しようとしてハンドルを左に切つた直後に、被告車の左前部を原告車に衝突させ、始めて原告車の進行を発見したのであり、従つて、被告は、この前方左右不注視の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷内容、治療経過、後遺障害

(一) 受傷内容及び治療経過

原告は、本件事故により、第一腰椎骨折、右肩打撲、全身打撲、両臀部の知覚鈍麻等の傷害を負い、石切生喜病院において、昭和五九年四月一八日から昭和六一年六月九日まで入通院(入院三九日、通院実日数一〇九日)の治療を受けた。

(二) 後遺障害

原告は、右治療経過のとおり入通院したが、前記傷害は完治するに至らず、昭和六一年六月九日、前記病院において、次のとおりの内容の後遺障害を残して症状が固定したとの診断を受けたが、右後遺障害については、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表に定める第一一級七号と同第一二級一二号に相当する。

(1) 第一腰椎変形

(2) 胸部椎部の可動域に著しい障害を残す。

前屈三〇度  後屈二〇度

右屈二〇度  左屈二〇度

右回旋三〇度 左回旋三〇度

(3) 両臀部と足の知覚低下、佇立困難、作業及び日常生活困難

4  損害

(一) 治療費(石切生喜病院) 七五万七二一六円

(二) 看護料 三〇万〇〇〇〇円

(三) 入院雑費 四万六八〇〇円

入院中一日当たり一二〇〇円の割合による三九日分

(四) 交通費等 一〇万二四六〇円

通院一回につき片道四七〇円の割合による実通院日数一〇九日分

(五) 休業損害 七六四万六八〇三円

原告は、本件事故当時、配偶者が経営する鉄工所(釘加工所)において配偶者と二人で釘加工の仕事(工員)に従事し、月額二〇万円の給与収入を得ていたとともに、主婦としても家事労働に従事していたから、昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計の三五歳ないし三九歳・女子労働者の平均賃金年額二三四万一〇〇〇円(月額一九万五〇八三円)の半分である月額九万七五四一円程度の収入を得ていたから、原告は、本件事故に遭遇しなければ、右各収入の合計月額二九万七五四一円を得ることができるはずであつたところ、本件事故による受傷によつて、事故発生日である昭和五九年四月一八日から症状固定である昭和六一年六月九日までの二五・七月間全く稼働できなかつたから、その間に合計七六四万六八〇三円の休業損害を被つた。

(算式)

(200,000+2,341,000÷12÷2)=297,541

297,541×25.7=7,646,803

(六) 入通院慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

原告は、前記記載の受傷とその治療のために家庭生活は殆ど崩壊し、また一生就労不能となつたために、配偶者の経営する鉄工所も倒産の見込みである。

(七) 後遺障害による慰謝料 三五〇万〇〇〇〇円

(八) 後遺障害による逸失利益 一五二八万八〇〇〇円

原告は、本件事故当時、前記配偶者の経営する釘加工所において釘加工の仕事に従事し、月額二〇万円の給与収入と賞与年間二〇万円の収入を得ていたから、本件事故により受傷がなければ症状固定時の四一歳以後も右収入を得ることができたはずであつたのに、前記後遺障害のため、その労働能力を就労可能年数である四一歳から六七歳までの二七年間にわたつて三五パーセント喪失したものであるから、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の現価を算出すると、一五二八万八〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したものというべきである。

(算式)

(200,000×12+200,000)×0.35×16.80=15,288,000

(九) 弁護士費用 一五〇万〇〇〇〇円

5  損害の填補

原告は、自賠責保険から後遺障害等級認定第一一級七号の保険金として二九九万円の支払を受けたので、これを前記損害合計額である三一一四万一二七九円から控除すると、残額は二八一五万一二七九円となる。

6  結論

よつて、原告は、被告に対し、右損害賠償合計金二八一五万一二七九円の内金二七〇九万四〇六三円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和五九年四月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実はすべて認める。

2  同2の(一)の事実は認めるが、同2の(二)の事実は否認する。

3  同3の(一)の事実中、原告の受傷内容は第一腰椎圧迫骨折と右肩打撲のみでありその余の受傷は争い、原告が治療経過どおりの入通院治療を受けたことは認めるが、その妥当性は争い、右肩打撲の治療期間は二ケ月の限度で、第一腰椎圧迫骨折のそれは一年間の限度でその相当性を認める。

同3の(二)の事実中、原告が自賠責保険において第一一級七号の認定を受けたことは認めるが併合一〇級であることは争う。脊柱に奇形を残せば、当然ある程度の神経症状は予想され包含される関係上、第一一級七号と第一二級一二号の併合による繰り上げはあり得ない。

4  同4のうち、(一)、(二)の各事実は認め、(三)の事実は不知、その余の事実はすべて争う。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故は、被告が被告車を運転して南から北に向かつて進行し本件事故現場にさしかかった際、道路左(西)側にある食堂の駐車場に左折進入しようとして左折の点滅の合図を出し徐行して左折進行中だつたのであるから、被告車の左後方から進行してきた原告車はこれに気付き、被告車との接触を避けるため同車の左側に入りこんではならない注意義務があるにもかかわらず、原告車は、漫然、被告車の左折に気付かず減速もせずに駐車場入口付近で同車の左側に入り込んだ過失による同車と接触するにいたつたのであるから、原告の右過失は大きく、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  損益相殺

原告は自賠責保険から二九九万円の支払いを受けている他にも、被告は石切生喜病院に対し原告の治療費として七五万七二一六円を支払い、原告に対し看護料として三〇万円、雑費として三万四七〇〇円、損害賠償内金として四〇万を支払つているから、原告は合計四四八万一九一六円の支払いを受けたことになる。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

本件事故は、原告車が道路の左端を直進中、後方から進行してきた被告車が自車の左前方を進行する原告車に気付かず、突如左折のためハンドルを左に転把したため、被告車の左前部を原告車の左後方側面に衝突させたのであるから被告の一方的過失によつて発生したものというべく過失相殺はなされるべきではない。

仮に、原告にも過失があるとしても、被告車は交差点でない場所を道路外に左折したことにより事故が発生したのであるから、被告車の過失割合は九〇パーセントとなり、原告車のそれは一〇パーセントとなる。

2  抗弁2の事実は全部認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因(運行供用者責任)

請求原因2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告は、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  原告の受傷内容、治療経過、後遺障害

請求原因3の(一)の事実中、受傷内容につき、原告が第一腰椎圧迫骨折及び右肩打撲の傷害を負つたことは当事者間に争いはない。

尚、原告は右傷害以外にも全身打撲を主張するが、証拠によれば全身打撲を負つたとまでは認めがたく、両臀部の知覚鈍麻は後記認定の後遺障害の内容である自覚症状の一つであつて本件事故による直接の受傷内容ではない。

ところで被告は、原告が昭和五九年四月一八日から昭和六一年六月九日まで入通院治療(入院三九日、実通院日数一〇九日)を受けた事実は争わないが、原告の右治療期間のうち本件事故と相当因果関係があるのは、右肩打撲につき二ケ月間、第一腰椎圧迫骨折につき一年間であると主張して治療期間の相当性につき争い、後遺障害についても併合一〇級であることを争うのでこれらにつき以下検討する。

真正に成立したことにつき当事者間に争いのない甲第二、第三号証、乙第一号証、及び原告本人尋問の結果(後記の採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば次のとおりの事実が認められ、原告本人尋問の結果中の右認定に反する部分は前掲証拠に照らして採用し得ず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  治療経過

(一)  原告は、昭和五九年四月一八日の事故直後に、救急車によつて大阪府東大阪市弥生町一八番二八号の所在の石切生喜病院に担送され受診した。

その際、原告は、意識清明であり、嘔気嘔吐はなく、右肩に擦過傷が認められたが、右肩創部痛の訴えは軽度であり、肩関節の運動は良好であつた。

さらに原告は、腰部にも運動時痛を訴えたため、腰椎レントゲン写真を撮影したところ、第一腰椎に圧迫骨折が認められた結果、コルセツト装着による安静治療のため入院を要するとの診断がなされたので、当日右病院に入院することとなり、当日は右肩創部の処置、消炎鎮痛剤、抗潰瘍剤の投薬等の治療を受けた。

原告は、入院中の同年五月一日には硬性コルセツトを装着することによつて歩行が可能となり、腰部痛を訴えてはいたものの、診療録(乙第一号証)の同年四月二四日欄には軽減した旨の記載が見られ、看護記録中の同年四月二五日欄にも同旨の記載が見られ、同中五月六日欄には腰痛ほとんど(マイナス)とあり、以後、腰痛緩和、腰痛軽度、特変なしの記載が多くなり、五月一九日から一週間の外泊をした後も異常はなかつたので、同月二六日退院となつた。

(二)  退院後、原告は、同年六月八日から通院を開始し、内服薬の投与、静脈注射、物理療法、温熱療法等の治療を受けたが、同年七月六日に撮影した腰椎レントゲン写真によれば、骨折部の仮骨形成は良好で変形は認められなかつた。

診療録の同年九月二七日欄には、来週から腰椎軟性コルセツトという記載があることから、その頃から原告はコルセツトを硬性から軟性に変えて装着したことが認められ、これを昭和六〇年三月二八日に除去するまで装着し、昭和六〇年七月二四日に撮影したレントゲン写真によれば、骨折部の骨癒合は完成していたことが認められたものの、レントゲン写真の側面像によれば後弯変形があり、疼痛の訴えもあつた。

そして、退院以降昭和六〇年七月二四日迄の治療内容は、主として静脈注射と物理療法であり、時々レントゲン検査や湿布剤の投与がみられた。

骨癒合判明後も、原告は八月二九日まで静脈注射のみの治療を五日間を受けているが、九月は全く受診しておらず、一〇月には二日間風邪か膀胱炎かの症状を訴えて受診したのみで、一一月には二日間腰痛を訴えて受診し鎮痛剤や湿布剤の投与を受けたが、同年一一月二六日を最後に翌昭和六一年六月四日に再度受診するまで約六ケ月間全く受診しておらない。

診療録の昭和六一年六月四日欄には、昭和六一年六月九日付後遺障害診断書(甲第二号証)と同一内容の記載と同一医師の署名があることから、右受診は右診断書を作成してもらうためのものであつたことが認められる。

(三)  以上の認定事実によれば、原告の受傷中最も重かつた第一腰椎圧迫骨折については順調な経過をたどつて退院し、退院後は静脈注射や物理療法を主として治療をしその治療内容に殆ど変化がないこと、昭和五九年一〇月頃には従前の硬性から軟性のコルセツトに変えることができ、昭和六〇年三月二八日には右コルセツトも除去でき、同年七月二四日には骨癒合が完成したことが判明したこと、その後の八月二九日までの治療は静脈注射のみであつたこと、それ以降は一一月に二日間腰痛の治療を受けたのみで、ごく短期間の私病の治療を除き昭和六一年六月四日まで長期間にわたつて受診していないこと、右受診は後遺障害診断書作成のためであつたこと、原告も本人尋問において退院後一年二ケ月位からは症状に変化がない旨の供述をしていること、等を総合して考慮すれば、骨癒合判明後しばらく経過観察期間をみるとしても、遅くとも昭和六〇年八月二九日でもつて原告の症状は固定したと認めるのが相当である。

2  後遺障害

(一)  原告は、前記治療経過のとおりの治療を受けたものの完治するに至らず、昭和六一年六月九日、石切生喜病院の山本公作医師により次のとおりの後遺障害が残存したとの診断がなされたことが認められる。

その内容は、自覚症状として、腰の疼痛及び両臀部の知覚異常があり、他覚症状しとて、レントゲン写真上、第一腰椎に変形治癒(脊柱全体として第一腰椎を中心に「くの字」変形する。)が認められ、両臀部には知覚鈍麻があり、腰椎部には運動障害があり、右障害の今後の増悪もしくは緩解の見通しについては、将来変形性関節症を招来するかもしれないとの前記医師の意見が付記されている。

右後遺障害につき、自賠責保険において第一一級七号の認定があつたことは当事者間に争いがない。

(二)  以上の認定事実及び争いのない事実によれば、原告には、自賠法施行令二条別表後遺障害等級認定表に定める第一一級七号に該当する後遺障害が残存したと認めるのが相当する。

尚、原告は別途第一二級一二号の障害も残存するから併合第一〇級が相当であると主張するが、前記治療経過で認定したとおり、原告の訴える腰痛は入院中でも「腰痛マイナス」、「腰痛緩和」、「腰痛軽度」の記載が診療録及び看護記録上認められる等退院時には相当軽減したことがうかがえること、通院中の腰痛の記載は簡単であり治療も同一内容のものを漫然長期間繰り返しているだけであること、骨癒合後の治療の頻度はわずかであり、昭和六〇年一一月二六日から同六一年六月四日までの約六ケ月間全く受診していないこと、等を合わせ考慮すると前記認定の症状固定時期において、局部に頑固な神経症状を残す後遺障害が残存したとは認め難く、原告に何らかの腰痛が残存したとしても、それはやがて自制できる程度の極めて軽度のものであつたと認められるから、前記第一一級七号の障害に含まれているものと言うべく別個独立の後遺障害とは認め難い。

四  損害

そこで、原告の被つた損害について判断する。

1  治療費 七五万七二一六円

当事者間に争いはない。

2  看護料 三〇万〇〇〇〇円

当事者間に争いはない。

3  入院雑費 四万六八〇〇円

原告が、合計三九日間入院して治療を受けたことは当事者間に争いがないところ、右入院期間中入院雑費として一日当たり一二〇〇円程度の支出をしたものと推認されるから、合計四万六八〇〇円を相当損害と認めることができる。

4  交通費等 一〇万二四六〇円

前記認定事実及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は通院当初の半年間はタクシーを使用するなどして通院交通費として合計一〇万二四六〇円程度を要したことが認められ、当時の原告の受傷内容、症状、程度からもタクシー使用は相当と認められるから、右金額をもつて交通費相当額とする。

5  休業損害 二七〇万三三七三円

前記三における認定事実、成立につき争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したことが認められる甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば次のとおりの事実が認められる。

原告は、本件事故当時、昭和一九年一〇月二九日生れの健康な女子であり、主婦として家事労働をするとともに、配偶者が経営する釘製造業「樋口製作所」において工員として稼働していたことが認められ、甲第二号証によれば月収二〇万円の記載はあるが、右休業証明書の作成者は原告の配偶者であり、源泉徴収票も添付されていないから、そのまま信用することはできないものの、原告の主婦及び工員としての稼働状況を総合して考慮すれば、少なくとも、原告の年齢に対応する昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計の三五ないし三九歳・女子労働者の平均賃金年額二三四万一〇〇〇円程度の収入を得ていたものと認めるのが相当である。

次に休業期間については、受傷日の昭和五九年四月一八日からコルセツトを除去した日の前日である昭和六〇年三月二七日までの三四四日間は一〇〇パーセント就労が不能であつたと認めるのが相当であるが、コルセツトを除去した日の同月二八日から前記認定の症状固定日である同年八月二九日までの一五五日間は全く就労が不可能とも認め難く、或る程度の制限はともなうものの、家事労働も工場内での仕事も五〇パーセント程度の就労は可能になつたものと認めるが相当である。

従つて、原告の被つた休業損害合計額は、二七〇万三三七三円となる。

(算式)

2,341,000÷365×344=2,206,312

2,341,000÷365×155×0.5=497,061

2,206,312+497,061=2,703,373

6  慰謝料 三七九万〇〇〇〇円

前認定の原告の傷害の部位・程度、入通院期間(通院実日数)、後遺傷害の部位・程度、本件事故の態様その他諸般の事情を総合考慮すると、本件事故によつて原告が被つた精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、入通院中のそれとして一一〇万円、後遺障害のそれとして二六九万の合計三七九万円をもつて相当であると認める。

7  逸失利益 八一九万〇一二八円

原告は、症状固定日である昭和六〇年八月二九日において、当時四〇歳の女子であり、前記認定の稼働内容からして少なくともその年齢に対応する昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計の四〇ないし四四歳・女子労働者の平均賃金年額二四三万六九〇〇万円程度の収入を得ていたものと認めるのが相当であるところ、前認定のとおり原告の後遺障害の内容(脊柱に奇形を残すもの)、及び程度(自賠法施行令二条別表に定める一一級七号に相当する。)によれば症状固定時から六七歳まで二七年間にわたり、その労働能力の二〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

そこで、右数値を基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して原告の後遺障害による逸失利益の現価を算出すると、八一九万〇一二八円となる。

(算出)

2,436,900×0.20×16.8044=8,190,128

(以上1ないし7の合計金額 一五八八万九九七七円)

五  過失相殺

前記争いのない事実に、いずれも真正に成立したことにつき当事者間に争いのない甲第五号証の一、二、原告本人尋問の結果(但し、後記の採用しない部分を除く。)及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば次のとおりの事実が認められ、原告本人尋問の結果中の右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場の状況は、概略別紙図面のとおりで、中央をセンターラインで区分した、南北に走る、一直線の幅員がいずれも約二・五メートルの、片側一車線の南北道路と西から進入する幅員約二・五メートルの道路が交差するT字型交差点であり、南北道路の両側には外側線によつて幅員がいずれも約一・〇メートルの路側帯が設けられてあつた。

本件事故現場は、市街地にあるアスフアルト舗装された平坦な道路で、事故当時、天候は晴れで路面は乾燥しており、交通量は頻繁で、制限速度は時速三〇キロメートルとなつており、終日追越しのための右側部分はみだし禁止の交通規制がなされてあり、前方の見通しは原告車及び被告車双方共に良好であつた。

本件事故は、T字型交差点の南北道路と西からの進入道路とが交差する辺りで、食堂「みどりや」の駐車場入口前付近の路側帯上で発生した。

路上には、スリツプ痕や擦過痕等は残されていなかつた。

被告車は、車長約四・一四メートル、車幅約一・六一メートル、車高約一・三九メートルであり、その車体の損傷状況は、フロントフエンダー及びバンパーの左角部に擦過痕、左後写鏡に曲損等が認められた。

原告車の損傷状況は、フロントフエンダー、ハンドルの右先、ブレーキレバーの先端等に擦過痕が認められた。

2  被告は、被告車を運転し、本件事故現場付近の北行車線を南から北に向かつて時速約三〇ないし四〇キロメートルの速度で進行し、別紙図面<1>地点にさしかかつたとき、現場の西側にある食堂「みどりや」の駐車場に左折進入しようと思い、減速するとともに左折の合図を出し、<1>地点から約一二・〇メートル進行した同<2>地点においてハンドルを左に転把し、右駐車場に進入しようとしてさらに<2>地点から約一・八メートル進行した同<3>地点に進んだとき、被告車の左後方から路側帯上を南から北に向かつて進行してきた原告車をア地点に発見したので、同地点において直ちにブレーキ操作を執つたものの間に合わず、同<×>地点において<3>地点の被告車の左前角部とア地点の原告車の前部とが衝突するに至り、被告車は<3>地点より前方約三・〇メートル進行した同<4>地点に停止し、原告は衝突の衝撃によりア地点よりほぼ北方へ約五・〇メートルの同イ地点に転倒し、原告車は原告の北横に車体右側を下にして横転した。

4  他方、原告は原告車に乗車し、道路西側の路側帯上を南から北に向かつて進行中、自車右前方の被告車が左折の合図を出して徐行しつつ左折しようとしているのを見落としたまま進行を続けたために、前記のとおり被告車と衝突するに至り、衝突の衝撃により、原告は原告車から転落し路上に転倒した結果、右肩打撲、第一腰椎圧迫骨折等の傷害を負つた。

尚、原告は、原告車が道路左端を直進中、後方から進行してきた被告車が自車の左前方を進行する原告車に気付かずに、突如左折のためハンドルを左に転把したため、被告車の左前部と原告車の右後方側面とが衝突したと主張し、原告は右主張に副う供述をしているので以下検討する。

若し、右供述が真実とすると、原告車の損傷部位は右後方側面になければならないが、前記認定のとおり、原告車の損傷部位はフロントフエンダー、ハンドルの右先、及びブレーキレバーの先端に擦過痕が残されていたのであるから(甲第五号証)、同車の損傷部位は右前側面に集中し右後方側面には損傷がないことと矛盾し、また、原告車には同車より大きい被告車から右方より外力が加えられた結果、原告車は車体左側を下にして転倒しなければならないところ、車体右側を下にして転倒したこと(甲第五号証の二中写真5号)、そして、原告の受傷内容の一つは右肩打撲であるから転倒の際原告の身体も右側を下にして転倒したこと等、原告車及び原告が右側へ転倒したことと明らかに矛盾することになる。

その反面、左折中の被告車に直進中の原告車が衝突した場合には、衝突の衝撃により、二輪車である原告車のタイヤがスリツプして最終的に車体右側を下にして横転することは充分あり得ることであるから、被告の主張とは矛盾しないことになる。

さらに、被告車の左後写鏡が前へ曲損していたことも(同写真1号)、原告車が被告車の後方から同車に衝突したことと矛盾することなく合致するのである。

以上、二車両の損傷状態及び原告車の転倒状況からすると、被告車が原告車より後方から進行してきて原告車の右後方側面と衝突したとは認めがたく、むしろ右の客観的証拠は、左折進行中の被告車に同車左後方から進行してきた原告車が衝突したという被告の供述に合致するのである。

そして、衝突状況が右のとおり左折中の四輪車に直進中の二輪車が衝突した場合、二輪車は四輪車によつて左方へ押される結果、原告車の前部は左へ回転を始めるから、被告車の左前角部と原告車の右前側面部とは衝突することになり、したがつて、前記認定のとおり、原告車の損傷部位が右前側面部であり、被告車の損傷部位がフロントフエンダー及びバンパーの左角部の擦過痕等左前角部であることと矛盾することなく合致し、原告の身体も車体同様に後方から左前方へ動くとともに被告車の左後写鏡に後方からあたつて前方へ曲げたものと無理なく考えられていずれも矛盾をきたさないことになる。

ところで、原告は、原告車が被告車より後方から進行してきて被告車の左車体に衝突した場合には、原告車はそのまま直進できなくなり被告車の左(西)側に転倒しているはずであると主張するが、原告車は北に向かつて直進中であつたのであるから衝突後も前(北)方へ動こうとする運動慣性が働くところへ、左折中の被告車によつて右前方を遮られるために、原告車は衝突より左(西)前方へ飛んで別紙図面イ地点付近に転倒したことは、慣性の原則からも何ら矛盾するものではなく、反対に、原告主張のように、直進中の原告車の右後方側面に被告車が衝突した場合、原告車の重心より後部に右後方から外力が加えられた結果、原告車は右へ回転しながら慣性の原則により右前方へ飛ばされるはずであるから、前記認定の原告車の最終転倒地点と矛盾することになる。

原告の供述によれば、衝突の瞬間原告の身体は飛び上がつて落ちたと供述しているが、右後方から当てられたとすると、原告は運動慣性どおり左前方へ飛ばされるだけで身体が飛び上がることはなく、原告車の方が被告車に衝突した場合には飛び上がることはあるから、右原告の供述は被告の主張に副うことになる。

しかも、原告車は被告車の前方を走行していたとするならば、並走車があつた等の事情が認められない本件において、わざわざ歩行者のための路側帯上を走行していたことは不自然なことであるのに対し、原告車が被告車の後方から走行し、同車左側を通過しようとしていたとするならば、本件事故現場は前記認定のとおり片側一車線であり、かつ、終日追越しのための右側部分はみだし禁止の交通規制がなされているのであるから、被告車を追い越そうとした場合、正常な追越しの場合のように同車の右側を通過することはできないから、路側帯上を走行し同車左側を通過しようとしたものと考えられることに不自然なところはないなど、前記認定の事故態様は本件事故現場の客観的状況とも合致するのである。

次に、原告は、本件事故は交差点における事故ではないと主張するけれども、被告車は駐車場に進入しようとしたのではあるが、右駐車場はT字型交差点に隣接し、本件事故発生場所は前記認定のとおり南北道路と西から進入道路とが交差する地点で発生したのであるから、交差点における事故であると認められる。

従つて、以上の認定事実によれば、本件事故発生の原因は、車両が路側帯を横切つて駐車場左折進入する場合は、左後方を注視し、路側帯上の安全を確認したうえで左折進入すべき注意義務があるというべきところ、被告は本人尋問においても、実況見分調書における指示説明でも左折進入するに際し左後方の安全を確認したとの記載はなく、したがつて、被告には左後方不注視の過失があることが認められるところ、他方、原告も自車前方を進行する車両がある場合は、右車両の動向に注意を払い、被告車が左折の合図を出して徐行しながら左折しようとしている場合には、同車が左折を終了するまで後方で停止して待機するなどの措置をとるべきであり、同車の左側を通過してはならない注意義務があるにもかかわらず、原告は被告車の動向に注意を払わなかつたため、同車が左折しようとしているのを見落としたまま、漫然、路側帯上を走行して被告車の左側を通過しようとした過失が認められ、これらの原告の前方不注視、左側追越禁止義務違反の各過失もまた本件事故発生の原因をなしていることが認められるから、前記被告の過失と対比して原告の右過失を考慮すると、前記認定の損害合計額一五八八万九九七七円から三割を減ずるのが相当であり、したがつて、原告が被告に対し請求できる金額は、一一一二万二九八三円となる。

六  損害の填補

原告は、自賠責保険から二九九万円の支払いを受けている他に、被告は石切生喜病院に原告の治療費として七五万七二一六円を支払い、原告に対し看護料として三〇万円、雑費として三万四七〇〇円、損害賠償内金として四〇万円をそれぞれ支払つたことは当事者間に争いがないから、前記損害額一一一二万二九八三円から右填補合計額四四八万一九一六円を差し引くと、六六四万一〇六七円となる。

七  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任しその費用及び報酬の支払いを約していることが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対し、本件事故と相当因果関係にある損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、六五万円と認めるのが相当である。

八  結論

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、前記六六四万一〇六七円に弁護士費用六五万円を加えた合計七二九万一〇六七円、及び右金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五九年四月一九日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部静枝)

別紙図面 略

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